誠眼鏡店をはじめて15年。常連のお客様のおかげで続けてこられたのはもちろんですが、最近一つ、気づいたことがあります。
それは、メガネを見て、つい「この子」と呼んでしまうことです。
自分が本当に「いいな」「好きだな」と感じる眼鏡を手に取ると、自然と「ああ、この子、かわいいな」という言葉が、心の中や時には口からこぼれてしまいます。
実は自分でも気づいていませんでした。「メガネのこと、この子って呼ぶんですね」とお客様に言われて初めて気づいたのです。不思議なことに、そのお客様も同じように「この子」と呼び始め、そうやって選んだメガネは、皆さん大切に使ってくださいます。
考えてみれば、商売の原点ってこういうことかもしれません。
「流行だから」
「月に〇個売ろう」
「利益率の高いものを推奨しろ」
そんなことでは、愛おしいメガネなど売れるわけがありません。
自分が「この子」と呼べるメガネだけを仕入れる。利益率が低くても、心から「いい!」と思えるものを選ぶ。すると不思議なことに、お客様との会話が弾みます。
「このフレームの角度、絶妙じゃないですか?」
「ここの仕上げ、職人さんの手作業なんですよ」
熱く語る私を見て、お客様も楽しそうに聞いてくださり、「じゃあ、その子をください」なんて言ってくださる。どうすれば、この子の魅力が一番伝わるか、どんな人に似合うだろうか、と考える時間そのものが、苦ではなく、喜びなのです。
誠眼鏡店が15年続いた秘訣は、これかもしれません。「売る」のではなく「好きなものを分かち合う」こと。
愛着を持てないものを売り続けるのは、心が疲れます。でも「この子」と呼べるものに囲まれていれば、仕事は楽しく、お客様との会話も自然と弾みます。それはもう、人に対する好意のようなもの。形や素材、作り手の想いを感じて、どこかで共鳴してしまうのです。気がつけば、「この子を、ちゃんと届けてあげたい」と思っています。
「この子、きっと誰かにすごく似合うだろうな」
「この子が届いたら、きっとその人の日常が少しだけ楽しくなるかもしれない」
そんな想像をしながら、今日も新しい一本と出会っています。
「この子」と呼びたくなるほどの愛着。それが、知らず知らずのうちに、私を支え、この店を支え、お客様との関係を紡いできたのかもしれません。これからも、たくさんの「この子」たちとの出会いを大切に、この仕事を続けていきたいと思います。
2025/05/03